賃貸併用住宅のメリットとデメリット
賃貸併用住宅は、自宅の一部を賃貸スペースとして活用する住宅形態であり、家賃収入を得ながら住宅ローンの返済に充てたり、広い土地の有効活用や相続税対策としても注目を集めています。
しかし、そのメリットを活かすにはいくつかのデメリットや注意点も理解しておく必要があります。
本記事では、賃貸併用住宅のメリット・デメリットを整理し、後悔しないためのポイントを解説します。
賃貸併用住宅に興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.賃貸併用住宅とは
賃貸併用住宅とは、一つの建物に自宅部分と賃貸部分を併設した住宅形式です。
オーナーは自宅に居住しつつ、残りのスペースを他人に貸し出して家賃収入を得られます。
一般的には戸建ての一部を賃貸用にしたり、マンションの一室を自宅として利用し、他の部分を賃貸するケースが多く、広い土地を有効活用したい、あるいはローン返済の負担を軽減したいと考える方に魅力的です。
画像:賃貸併用住宅の例
賃貸併用住宅の特徴として、たとえば1階を自宅、2階を賃貸住宅にするなどのパターンがあり、将来的に二世帯住宅として活用することも可能です。
ただし、賃貸部分の建設により費用が増える点や、住宅ローン利用に際しては金融機関の条件を満たす必要があるため、計画的な検討が求められます。
一般的には自宅部分と賃貸部分を半々に分けるケースが多いですが、最上階をオーナー邸とするマンションタイプの併用住宅も存在します。
2.賃貸併用住宅のメリット
次に、賃貸併用住宅のメリットについて見ていきましょう。
ー家賃収入によってローンの返済が可能
賃貸併用住宅の大きなメリットの一つは、賃貸部分から得られる家賃収入を活用して住宅ローンの返済に充てられることです。
住宅を購入する際には、多くの場合、長期にわたる住宅ローンを組む必要がありますが、賃貸併用住宅であれば、ローンの負担を軽減するための資金を毎月の家賃収入から賄うことができます。
例えば、住宅ローンの毎月の返済額が15万円だとして、賃貸部分の家賃収入が10万円あれば、自分が負担するのは実質5万円となり、かなりの軽減効果が得られます。
これにより、自宅部分の居住費用を抑えつつ、将来の資産形成にもつながります。
また、将来的に家賃収入が安定的に得られることで、ローン返済が進むに従って資産としての価値も高まり、長期的な収益源となる可能性があります。
万が一の収入減少や経済的な困難に直面した際も、家賃収入が支えとなるため、経済的な安心感も得られます。
このように、賃貸併用住宅は自分自身の住まいでありながらも、収益性を兼ね備えた住宅形態であり、自己負担を抑えつつ住宅ローンの返済を進めることができます。
ー広い土地を有効活用できる
広い土地を所有している場合、その土地を最大限に活用できることも賃貸併用住宅の大きなメリットです。
賃貸併用住宅を建てることで、ただ単に「住むためのスペース」として土地を使うだけでなく、「収益を生み出すスペース」としても活用できます。
例えば、土地を分けて住居と賃貸部分に分けることで、自分の居住スペースを確保しながら、余剰部分を賃貸として出すことが可能になります。
広めの土地を持っている場合には、複数の賃貸部屋を設けることもできるため、より多くの家賃収入が期待でき、収益性が高まります。
また、広い土地には駐車場や庭といったスペースも設けることができ、賃貸物件の付加価値として利用できます。
駐車場付きの物件や、共用スペースとしての庭などは、入居者にとっての利便性が増し、賃貸需要の向上にもつながります。
こうした工夫により、収益性と土地の利便性の両方を高められるのも、賃貸併用住宅の強みです。
ー相続税対策になる
一般に、土地や建物を相続する際には、その評価額に基づいて相続税が課されますが、賃貸併用住宅の場合、賃貸部分があることで評価額が下がるため、結果として相続税を軽減できる可能性が高くなります。
住宅用の土地や建物に賃貸部分が含まれていると、「貸家評価減」という評価減額の特例が適用されます。
貸家評価減は、賃貸に出している物件について、通常の自宅として所有している土地や建物に比べて相続税評価額を低くするための制度です。
賃貸物件は所有者が自由に使えない制約があるため、相続税評価額が自宅だけの場合と比較して低く計算されるのです。
また、賃貸併用住宅の土地に関しても「小規模宅地等の特例」を活用できる可能性があります。
この特例により、賃貸部分の土地については通常よりも大幅な減額が認められるため、土地評価額が低くなり、結果的に相続税の負担を抑えられるのです。
広い土地を所有している場合には、この特例の適用によって相続税額が大幅に軽減される可能性があります。
ー固定資産税の減税効果
通常、土地や建物にかかる固定資産税は、その評価額に基づいて算出されますが、賃貸併用住宅の場合、住宅用地としての特例が適用されるため、税負担が軽減されることがあります。
この「住宅用地の特例」は、住宅が建っている土地に対して適用され、固定資産税の負担を軽減するための制度です。
住宅用地については、固定資産税評価額が減額される特例措置があり、通常は土地面積に応じて「小規模住宅用地」や「一般住宅用地」として扱われます。
たとえば、小規模住宅用地(200平方メートル以下)は、固定資産税評価額が1/6に減額され、一般住宅用地(200平方メートル超)は1/3に減額されるため、固定資産税額が大幅に軽減されることになります。
賃貸併用住宅であっても、自宅部分が含まれている場合には住宅用地として認められることが多く、この特例の対象となることができます。
自宅部分と賃貸部分を併用することで、賃貸収入を得ながら、固定資産税の軽減措置も受けることができるのが大きなメリットです。
3.賃貸併用住宅のデメリット
賃貸併用住宅には以下のようなデメリットもあります。
ー設計上の制約が大きい
賃貸併用住宅を設計する際には、自宅として利用する部分と賃貸部分を分けて設計する必要があります。
このため、一般的な戸建て住宅やマンションに比べて、建築デザインや間取りに大きな制約が生じることがあります。
例えば、自宅部分と賃貸部分が接する壁の遮音性や、共用スペースの配置などに工夫を凝らす必要があります。
特に、生活音や動線が重ならないようにすることが求められます。
オーナーと入居者がお互いに気を使わずに快適に過ごせるようにすることが重要ですが、こうした工夫が求められることで、設計の自由度が制限され、希望通りのデザインやレイアウトが難しくなることもあります。
また、賃貸併用住宅では、共用エントランスや階段の配置が必要であり、どこに配置するかで建物の間取りに大きな影響を与えます。
自宅部分と賃貸部分のエントランスを分けるか、共有するかといった設計上の選択も必要で、どちらにしても居住者のプライバシーや利便性、さらにはコスト面での影響が出てきます。
このように、賃貸部分と自宅部分の動線を考慮しながら設計を進めることが求められるため、間取りの自由度が狭まりがちです。
さらに、賃貸部分と自宅部分の面積比率や配置にも考慮が必要です。
住宅ローンの条件や建築基準法の制約に従って設計を進める必要があるため、希望する広さや形状に制限がかかることも少なくありません。
特に、自宅部分を広めにしたい場合や賃貸部分を複数設けたい場合は建物全体の構造や設備、さらには税制上の影響も考慮しなければならず、設計にさらに複雑さが加わります。
ー苦情が直接来る場合がある
通常の賃貸物件であれば、入居者が抱える問題や不満は管理会社を通してオーナーに伝わることが多く、間接的に対応することが一般的です。
しかし、賃貸併用住宅ではオーナーが直接的に入居者と接する機会が増えるため、騒音や共用スペースの使い方に関する苦情が直接オーナーに伝わることが多くなります。
例えば、足音や話し声、テレビの音が気になるといった苦情が入居者から寄せられることがあります。
通常の賃貸住宅であれば、入居者が管理会社に相談し、その後管理会社がオーナーに対応を依頼する流れが一般的ですが、賃貸併用住宅では入居者が直接オーナーに苦情を伝えやすく、オーナーが直接対応せざるを得ない場面が増えます。
また、共用スペースの使い方に関する不満もよく見られます。
エントランスや廊下、駐車場、ゴミ捨て場などの共用スペースは、オーナーと入居者が共同で利用することが多いため、使い方やマナーに関する意見がぶつかることがあります。
エントランスに荷物が置かれている、廊下が散らかっている、駐車スペースが適切に使われていない、といった些細な問題であっても、入居者はオーナーに直接伝えて改善を求めることが多くなります。
このような苦情に対して、オーナーが直接対応することは入居者にとっては迅速な解決に繋がる点がある一方で、オーナーにとっては精神的な負担となる場合が多いです。
特に、トラブルの内容が繰り返し起こる場合や、複数の入居者から同様の苦情が寄せられる場合には、オーナーの日常生活にも影響を与える可能性があり、オーナーと入居者の関係が悪化するリスクもあります。
そのため、管理体制やルールの明確化を図り、可能であれば管理会社のサポートを活用するなどの対策が必要です。
ー収益性が低い
賃貸併用住宅は、自宅として利用する部分と賃貸部分が同じ建物内にあるため、賃貸部分からの家賃収入を得られるというメリットがあります。
しかし、一般的な投資用のアパートやマンションに比べて収益性が低くなるケースが多く、投資としてのメリットが薄れる場合もあります。
賃貸併用住宅の賃貸部分の規模は通常、純粋な賃貸物件であるアパートやマンションに比べて小規模です。
賃貸部分が少数の部屋や階に限定されているため、全体の収入が限られてしまいます。
さらに、建物全体の管理や維持を考えると、修繕費用は賃貸部分だけでなく自宅部分にもかかり、これらをカバーするために家賃収入だけでは不十分なケースもあります。
外壁の修繕や屋根の補修、配管の更新などの大規模な修繕が必要な場合、その費用の負担が賃貸部分だけでまかなえないことが多く、収益性が低下する要因となります。
賃貸併用住宅は賃貸部分からの収益が期待できる一方で、投資用不動産としては収益性が低くなりがちです。
賃貸併用住宅を検討する際には、収益性だけでなく、生活の利便性や資産価値なども含めて総合的に判断しましょう。
ー売却が難しい
一般的に、住宅を購入する際には自宅として利用するための戸建て住宅やマンションが求められることが多いですが、賃貸併用住宅の場合は、自宅と賃貸部分の両方を管理する手間や費用を考慮する必要があり、賃貸経営に興味がない人や、管理の手間を避けたいと考える購入者には敬遠されがちです。
特に、購入希望者が自身で住むだけの物件を探している場合、賃貸併用住宅は候補に入りません。
また、賃貸部分と自宅部分を分ける設計や、共用スペースの配置などが一般的な住宅と異なるため、購入者の要望に合致しないことが多いです。
購入者が賃貸経営を行わない場合、賃貸部分が不要なスペースと見なされ、物件の価値が低く評価される可能性があります。
4.賃貸併用住宅で後悔しないためのポイント5つ
賃貸併用住宅を検討する際に後悔しないためのポイントとして、以下の5つが挙げられます。
ー①立地の見極め
賃貸併用住宅の運用を成功させるためには、立地選びが極めて重要です。
立地が良ければ賃貸部分が空室になりにくく、安定した収益を見込めます。
特に、交通アクセスが便利なエリアや生活施設が整っている地域、また治安が良く、住みやすい環境かどうかが鍵となります。
周辺の賃貸需要や家賃相場も調査し、競争力のある家賃設定ができる場所を選ぶことがポイントです。
ー②ニーズに合う設備や間取り
入居者が求める設備や間取りを理解して設計をすることもポイントです。
単身者向けであればコンパクトな間取りと使いやすい収納、ファミリー向けであれば広めのリビングやファミリータイプのキッチンなど、入居者層に合わせた設計が求められます。
設備に関しても、インターネット環境やエアコン、セキュリティシステムなどの需要に合ったものを取り入れることで、入居率を高めることができます。
自宅部分とのバランスも考慮しながら、賃貸部分が快適に利用できるような設備を整えましょう。
ー③プライバシーの確保
賃貸併用住宅では、自宅部分と賃貸部分のプライバシーを確保する工夫が必要です。
例えば、別々の玄関や動線を設けることで入居者と顔を合わせる機会を減らし、プライバシーを守ることができます。
騒音対策として、防音性能の高い壁や床材を使用することも大切です。
また、入居者が居住スペースで過ごす際のプライバシーも尊重することで、入居者の満足度が向上し、トラブルのリスクを減らせます。
ー④法規制と制約の確認
賃貸併用住宅の建築や運用には、建築基準法や税制上の制約が適用されるため、法規制の確認が欠かせません。
建ぺい率や容積率などの制限が賃貸部分の面積に影響を与える場合があります。
また、住宅ローンの適用条件や固定資産税の特例など、税制面でのメリット・デメリットも理解しておく必要があります。
建築や運用に関する法的な制約を事前に確認することで、後々のトラブルを避けることができます。
ー⑤長期の収支計画が重要
賃貸併用住宅は、自宅としての利用と収益目的の両方を兼ね備えているため、長期的な収支計画が重要です。
賃貸部分の家賃収入がどれくらいローン返済や維持費に充てられるか、空室リスクや修繕費用などを見込んで計画することが必要です。
将来的な物件の売却も視野に入れて、資産価値が落ちにくいような設計や管理を行うことも大切です。
家賃収入の見込みや将来のメンテナンスコストを正確に把握し、無理のない資金計画を立てることで、安定した運用を目指しましょう。
5.まとめ
賃貸併用住宅は、自宅の一部を賃貸にすることで家賃収入を得つつ、住宅ローンの負担を軽減できる魅力的な住宅スタイルです。
広い土地の有効活用や相続税対策、固定資産税の減税効果など、多くのメリットが期待できる一方で、設計や管理の制約、収益性、売却時の難しさなどのデメリットもあります。
後悔しないためには、立地や設備、プライバシー、法規制の確認、そして長期的な収支計画が不可欠です。
慎重に準備を行い、自分の生活スタイルや将来のニーズに合った設計を検討することで、満足度の高い賃貸併用住宅を実現できるでしょう。
賃貸併用住宅は生活と資産運用を両立させる選択肢の一つとして、今後も多くの人々に支持されるでしょう。
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