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不動産投資

2018.05.29

満室の窓口

相続手続の負担が減る?「法定相続情報証明制度」とは

放置されがちな相続登記を促進すべく導入

「法定相続情報証明制度」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。2017年5月29日にスタートした新しい制度であるため、まだあまり馴染みがないかもしれません。従来、その煩雑さが取り沙汰されてきた各種相続手続における相続人の負担を軽減させることが目的の仕組みなのですが、うまく利用するためにはその概要を知り、ポイントを押さえて対処することが必要です。


そこで今回は、この制度の概要や利用方法、注意したいポイントなどについて解説していきます。とくに土地や建物の相続で重要となってきますから、ぜひチェックしておいてください。


これまでの相続手続では、故人(被相続人)の戸除籍謄本など必要な書類一式の束を、対象となる手続を行う窓口へ何度も提出しなければなりませんでした。


しかし「法定相続情報証明制度」では、相続関係を一覧で示した図を提出することで、それらの情報に関し簡素化しながら、必要内容を示して保証する専用の証明書を発行、これを提示しさえすれば、各窓口での申請手続が可能となります。書類1枚でOKになると考えれば、かなり楽になることが想定されるでしょう。


導入の背景には、不動産登記の所有者変更手続が進んでいないことがあります。相続が発生すると、被相続人の動産については、金融機関で預金払い戻しの手続を行うといった行動がまずとられます。


一方、被相続人名義の不動産については、名義変更を行う相続登記に期限が定められておらず、放置していてもすぐに支障があることは稀であるため、後回しにされがちでした。申請時には誰が相続をするのか確定し、証明するため、被相続人出生から死亡までにかかる戸籍謄本をはじめとした必要書類一式を揃えなければならず、これを申請する法務局ごとに提出しなければならない手間の大きさも、手続の遂行を阻んできた面があると考えられます。


その結果、実態に合わない登記記録が増え、所有者不明の不動産が増加、各地で老朽化も著しい空き家の放置や、農地集約化や公共事業用地の取得、災害復興事業や防災事業など公益に資する取り組みを妨げる物件の存在などが、深刻な問題となっているのです。


個々においても、長く放置することで相続人の数が膨大となり、不動産が動かせなくなる、揉め事に発展するといったケースも多々発生しています。こうしたさまざまな問題を解決する一助になると期待されるのが、手続を簡略化する「法定相続情報証明制度」なのです。

制度の概要と利用方法

「法定相続情報証明制度」では、法定相続人に関する情報をまとめた「法定相続情報一覧図」を作成して、必要書類一式とともに法務局(登記所)へ提出、登記官のチェックを受けて認証文を付けた一覧図の写しを証明書として交付してもらいます。


これにより、提出した「法定相続情報一覧図」は、法務局で保管されるところとなり、以後5年間は交付された認証文付き法定相続情報一覧図の写し1枚のみで、各種相続手続が行えるようになります。交付は無料で行われるため、費用の心配もありません。


それぞれが異なった登記所の管轄に属する複数の不動産を相続する場合や、複数の金融機関における口座の払い戻し、名義変更手続、契約していた保険会社での請求手続など、いくつもの相続関連手続を同時に進めることもできます。


現行の制度では、戸籍謄本など一式の書類が全ての窓口で必要とされ、戸籍謄本ひとつ入手するにも費用がかかりますから、基本的に一通りの手続が終わるまで待って、返却されたら次の手続と順に進めていくことになるでしょう。しかし法定相続情報一覧図の写しは無料で交付されますから、手続に必要な数だけ用意し、それぞれへ提出して同時進行させることができるのです。時間もコストもカットでき、スムーズに相続を完了させられやすくなります。


制度を利用して発行を求めるには、まず被相続人の出生から死亡時にかかる連続した戸籍謄本・除籍謄本、被相続人が最期に居住していた場所を示す住民票の除票、相続人全員の戸籍謄抄本、代表として申し出て手続を進める相続人の本人確認書類を用意します。


次に「法定相続情報一覧図」の作成を行います。被相続人と相続人の関係性、出生地、住所など必要事項を明記してまとめ、作成日の記入と作成者の署名(記名押印)を行います。記載の仕方は法務局のページで案内されており、様式データを取得することもできますから、参考にしてください。


「申出書」の作成も必要です。こちらには申し出る相続人の基礎情報と被相続人との続柄、利用の目的、交付を求める通数、申し出年月日といった情報を記載します。


これらが揃ったら、被相続人の本籍地か最後の居住地、申し出人の居住地、被相続人名義不動産の所在地のいずれかにあたる管轄法務局(登記所)に赴き、申請します。受取人確認に必要ですから、印鑑を持参しましょう。直接足を運ぶことが難しい場合は、郵送での手続も可能です。


利用にあたり注意すべきポイントは?

便利な「法定相続情報証明制度」ですが、利用に際し注意すべき点もいくつかあります。まず、被相続人である故人と相続人全員が日本国籍を有している場合しか利用できません。


また、民間の金融機関、証券会社、生命保険会社などがこの制度に対応し運用するかどうかはあくまで任意とされているため、手続を希望する場合、使えるかどうか事前に確認しておく方がよいでしょう。


ほかに、この「法定相続情報の写し」は、相続関連の基本的なものにおいて有効性を発揮しますが、遺産分割協議や相続放棄などがあった場合には、別途従来通り、遺産分割協議書などの書類提出も必要になります。必ず1枚で済むとは限らないこと、あくまで戸籍謄本一式などの代わりであることを理解しておきましょう。


現段階では、相続税の申告で用いることもできません。こちらの添付資料としては、これまで通り戸籍謄本一式など全書類を整える必要があります。


いかがでしたか。「法定相続情報証明制度」の概要が理解できたでしょうか。制度を利用するための手続が必要で、一覧図や申出書の作成を行うことが求められるほか、相続手続の全般で万能に使えるというわけではないものの、不動産相続を中心に利便性の高い仕組みとなっています。


法務省の案内ページを参考にしたり、法務局窓口や専門家への相談を行ったりしながら、賢く活用しましょう。


(画像は法務省ホームページトップより)

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